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電通本社ビル売却のニュースから学ぶ「リースバックとオフバランス」

先日、「電通、本社ビルを売却!」という見出しのニュースが流れ、ちょっとした話題になっていました。

昨年、電通は新型コロナの影響やそれに伴うオリンピックの延期の影響、また海外事業の構造改革等により、経営状況はとても厳しく昨季は赤字決算になったようです。

このニュースを見て、
「業績悪化を理由に電通が本社ビルを売却したら、新本社はどこに移転するかな?」
「現在の汐留という都心から、少し離れた地価が安い立地に移転するのだろうか?」
このような疑問を持たれた人も少なからずいるのではないかと思います。

しかし、このニュースをよく読むと、本社ビルは売却するものの、オフィスは引き続きこのビルを利用するとしています。 それってどういうことでしょうか?

実は、これはリースバックという仕組みを使うのです。
そこで、今回は電通本社ビル売却のニュースから、リースバックオフバランスについて解説したいと思います。
*本日現在、電通の発表によると、本社ビル売却は正式発表したものではないというコメントが出ています。したがって、当ブログの内容は一部仮定の内容になっています。ご了承ください。

リースバックとは?

電通は本社ビルを売却して、そのままオフィスとして継続利用するために「リースバック」という仕組みを使います。
ではリースバックとは、なんでしょうか?

リースバック=賃貸借契約付き売却(sale and leaseback)

リースバックでは、物件を第三者(不動産会社等)に売却し、その後賃貸借契約を締結しリース料を支払うことで、今までとおり使い続ける仕組みです。
この仕組は一般の個人用住宅でも使われています。一度、自分のマイホームを第三者に売却し、その後、家賃を払って住み続けるようなものです。

リースバックのメリット

では、次にリースバックのメリットを見ていきます。

①コスト削減

不動産つまり固定資産を保有すれば、固定資産税がかかります。
さらに不動産や付帯する設備を維持管理する諸費用もかかります。これが結構、馬鹿になりません。人手やそれなりの手間もかかりまます。

一方、リースバックを行い、家賃払いの形にすれば余計なコストが削減されるメリットがあります。しかも、従業員や取引先からみた影響はありません、というか言わなければ全くわかりません。
また、それ以外にも「所有から利用する」という観点ではOPEX(オペックス)のメリットがあります。
OPEXのメリットについては、以下の記事も参照ください。

②資金調達

企業が業績悪化した場合や大型投資を行う場合など、一時的に相当の資金が必要になることがあります。
経営状況の悪化によって本社ビルを売却したケースは珍しくありません。過去にはNECやソニー、東芝なども本社ビルを売却しています。また、先日もエイベックスが南青山にある本社を売却するニュースが話題となりました。
(いづれもリースバックを活用して、本社ビルの場所に変更はありませんでした)

本社ビルを売却することで売却益が見込めます。電通の売却額は3,000億円程度と見られていますので、一時的にはこれらのキャッシュが手元に入ります。一方、賃貸料は月額や年額等でのサブスク払いに変わります。分割払いのようなイメージになりますので、当面はキャッシュフローがあ安定します。

③オフバランス化

オフバランス化の「バランス」とは、賃借対照表(Balance Sheet)のバランスのことをを指しています。つまり「オフバランス」とは、不動産などの資産を貸借対照表からオフする、つまり外すという意味になります。

もし、電通が本社ビルをリースバックしてオフバランス化を図ったら、以下のとおり、バランスシートから約3,000億円の資産が減少いたします。


(上図B/Sは、電通 IRデータをもとに簡易作成)

以上がリースバックするメリットとなります。

では次に、オフバランスするメリットであるROAについて説明します。

ROA(総資産利益率)とは?

オフバランスにすると何がいったい良くなるのでしょうか?
一見、資産が減ってしまうのは良くないようにも思えますよね。

しかし、企業は小さなお金を使って、大きな利益を稼ぐことが良いこととわれています。
その効率性を図る一つの指標が、ROA(総資産利益率)です。

経営指標の重要な指標にROA(総資産利益率)があります。
計算式は、
ROA(%)=当期純利益÷総資産×100

ROAとは、会社の総資産を利用してどれだけの利益をあげられたかを示す数値になります。ROAが高い会社とは、少ない資産でたくさんの利益を稼いでいる効率の良い会社ということです。
電通本社ビルをリースバックした場合、この不動産3,000億円分がバランスシートから外れます。(左の借方、右の貸方ともに3,000億円分減ります)すると、ROAを求める式の分母(総資産額)から3,000億円が減ることで、結果的にROAの数値が改善します。これがオフバランスを行うメリットです。
ピンと来ない人もいるかもしれませんが、投資家などはROAも重要な経営指標としてみているのです。
ちなみに、一般的にはROAが5%以上あれば優良企業と言われれいます。

アセットライト

「アセットライト」という言葉を聞いてことはあるでしょうか?
最近の経営で注目されている言葉です。

Asset 資産 + Light 軽い

なるべく資産を持たない、つまり、最近の経営は、環境の変化に柔軟に対応できるように、身軽な状態にするのが流行っているようです。

かつて、銀行などをはじめとする大企業は、土地・建物の不動産を多く所有しており、この資産がひとつの企業価値にもなっていました。その後、コアコンピタンス以外のアセットをアウトソースするという流れになりました。利益の創出が期待できない建物やITインフラの投資は減少し、今回の電通のケースのように「所有から利用する」時代になりました。

そして、今はさらに進んで事業のコアである資産さえ持たない会社が注目を浴びています。
たとえば、自動車を持たないUberや、宿泊施設を持たないairbnbなど、持たざる経営の代表格となっています。
今後、本当に事業に必要な資産は、ビジネスのアイデアや新規性のある技術ネタの無形の資産になってくるという予測もあります。
先日、”WALL STREET JOURNAL”に以下の記事がありました。ご参考まで。

まとめ

電通本社ビル売却のニュースは、経営状況が厳しくなったので、本社ビルを単に売ってしまったということではないことがおわかりだと思います。オフバランス化してアセットライトにしたのです。

一方、新型コロナの影響によって、電通はテレワーク化を進めており、出社率も相当おさえているようです。こうした状況から、このリースバックをきっかけに、オフィスの半分程度は返却するようです・・。
これは、不動産業界をはじめ様々な業界に大きな影響を与えることになると思われます。
この新型コロナによる”ニューノマール”によって、単に費用削減で終わることなく、新しい価値創造のきっかけとなるように期待したいと思います。